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労基法大改正で変わる“働き方の未来”──社労士 松井勇策先生が語る、人的資本経営の本質とTeamSpiritの役割

労基法大改正で変わる“働き方の未来”──社労士 松井勇策先生が語る、人的資本経営の本質とTeamSpiritの役割

2027年に予定されている労働基準法の大改正は、企業の働き方や制度設計に大きな影響を与える重要な転換点です。今回の改正は、単なる法令対応にとどまらず、人的資本経営や多様な働き方の推進といった、企業の成長戦略にも深く関わる内容となっています。

本記事では、改正の背景や本質、そしてTeamSpiritが果たす役割について社労士・松井勇策先生にお伺いしました。

松井 勇策 先生}

松井 勇策 先生

産学連携シンクタンク iU組織研究機構 代表理事・社労士。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授(人的資本経営・雇用政策)。社労士・公認心理師・AIジェネラリスト。
時代に応じた先進的な雇用環境整備について、雇用関係の制度や実務知識、特に国内法や制度への知見を基本として、人的資本経営の推進・AIやICT関係の知見を融合した対応を最も得意とする。
人的資本経営の導入コンサルティング・先進的なAIやDX対応の雇用環境整備コンサルティング・国内の上場やM&Aに対応した人事労務デューデリジェンスなどに多くの実績がある。
著書『現代の人事の最新課題』『人的資本経営と開示実務の教科書』シリーズほか。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議 議長・責任者、人的資本経営検定 監修・試験委員長。

法改正は“点”ではなく“線”──働き方の未来を見据えた制度設計の意図とは

編集部:
松井先生にはチームスピリットのセミナーでご登壇いただくなど、いつも大変お世話になっております。松井先生と当社のご縁は、どのようなきっかで始まったのでしょうか?

松井先生:
こちらこそ、いつもありがとうございます。

私は社労士として活動して10年になるのですが、2019年頃から「人的資本経営」についての情報発信を始め、徐々に広く認知されるようになってきました。そうした情報発信の活動をしていく中で、企業に戦略的な提案として推進できるツールの必要性を強く感じていました。その頃は、人的資本経営といえばタレントマネジメントシステムとの連動性の話が多かったのですが、それだけでは不十分だと感じていました。
人的資本経営は、「働き方の変革」につながってはじめて意味があるため、戦略的に活用できる勤怠システムや労務管理システムが最終的な決定打になることは、当初より間違いないと思っていたからです。

改めてさまざまなサービスを理解しようと情報収集していたところ、戦略的に勤怠に関する把握をしている私のお客さまの中で、特に「TeamSpirit」を利用されている企業が多いことに気が付いたんですね。
そこで、勉強を兼ねて調査させてもらったのですが、「TeamSpirit」は機能のレベルが非常に高く、勤怠という領域に留まらず、もっと広い視点で企業の課題解決につながるサービスだと感じました。
私自身、HR領域のイベントにも多く参加しているのですが、ちょうどイベント出展されていたチームスピリットさんとご縁をいただいたことがきっかけで、現在セミナーなどに登壇する機会をいただいています。

編集部:
ありがとうございます。今年2025年の10月には育児・介護休業法改正、2027年には労働基準法の大改正(労基法改正)が控えていますが、なぜ日本では頻繁に法改正が行われるのでしょうか?

松井先生:
根本的な背景からお話すると、2015年頃に安倍内閣のもとで「働き方を変えなければいけない」という気運が一気に高まりました。日本は「失われた10年、20年」と言われるように生産性が上がらず、経済の根本に原因があるのではないかという問題意識が強くなったのです。

その流れを受けて2017年に政府の「働き方改革実行計画」が示され、まずは過重労働の是正に取り組むことになりました。これが「働き方改革」のフェーズです。その後、2020年前後からは「人的資本経営」が注目され、経営戦略と人事施策をどう結び付けるか―育成や配置、人事制度といった、より経営寄りのテーマに焦点が移っていきました。

引用元: 労基法大改正 戦略レポート iU組織研究機構 松井勇策

松井先生:
ただ、この人的資本経営の議論には、勤怠管理や労務管理、賃金管理といった“働き方の根幹”が十分に含まれていませんでした。今回の労基法改正は、まさにそこを補うものだと考えています。

引用元: 労基法大改正 戦略レポート iU組織研究機構 松井勇策

松井先生:
具体的には、労働時間の通算方法の見直し、年次有給休暇の取得時賃金の明確化、フレックスタイム制の改善、労働時間情報の開示義務、勤務間インターバル制度の義務化、36協定の締結方法の変更といった項目が挙げられます。これらは一律適用のものもありますが、働き方の実情に応じて導入されるようなものも複数あります。

また、この改革は単なる労務改善にとどまらず、「働き方改革」から「付加価値を高める人的資本経営」へと進む次の段階での、働き方の変革を最終的に完成させていくような位置づけのものだと思います。

働き方改革の始まった時の方針からいけば、安倍内閣の「三本の矢」の中でも位置づけられていた「成長戦略を可能とする構造改革」の中心となる位置づけのものです。「失われた30年」からの脱却という、大きな設計思想の延長線上にある取り組みだと理解していただくと分かりやすいかもしれません。

引用元: 基法大改正 戦略レポート iU組織研究機構 松井勇策

編集部:
なるほど。法改正は単発的に起きているのではなく、戦略的な流れの中で位置づけられているのですね。

松井先生:
そうです。日本の制度改革は短期的なニュースで切り取られることが多いのですが、実際には10年、20年単位で準備されているものがほとんどです。年金制度などもそうですが、長期的な設計の中で調整されている部分を、突然決まったかのように報道されてしまうのですが、そうではありません。そのギャップを埋めて理解していくことが重要だと思います。

法改正を「規制」ではなく、企業の競争力を高めるための戦略的な機会であり、使い勝手の良い強力なツールとして捉える

編集部:
今回の労基法改正は、経済構造改革の中で位置づけられる大きな流れの一部ということですが、企業ではどのような対応が求められるのでしょうか。

松井先生:
項目だけを見てしまうと、改正される項目が非常に多いように見えますが、個々のルールや些末な法的議論にこだわらず、全体像を捉えるのが重要だと思います。

先ほど挙げたように、労働時間の通算方法の見直し、年次有給休暇の取得時賃金の明確化、フレックスタイム制の改善、労働時間情報の開示義務化、勤務間インターバルの義務化、そして36協定の締結方法の変更など、企業が対応すべき制度は多岐にわたります。
しかし、重要な本質は「働き方を自由にしていく」とい点に尽きます。わかりやすく言うと、時間や場所に関する安易な拘束をなくし、企業一社に縛られる働き方からも解放し、さらに事業主と労働者の間で、働き方に関する意思疎通を促進することが求められています。

労基法改正とは、「働き方を自由にする変革をしやすくする機会であり、使い勝手の良いツール」である、ということを理解し、どこまでどのように行うか、そのために労基法をどう活用するか、経営戦略から見てどこから手を付ける人材戦略を立てるか、などの視点から捉えていくことが重要です。個々の法令の細かい趣旨を狭く捉えるとそのことが分からなくなります。

引用元: 労基法大改正 戦略レポート iU組織研究機構 松井勇策

編集部:
相当に大きな変化につながりそうですね。自社がどこから手をつけるべきなのか迷う企業も多いのではないでしょうか。

松井先生:
そうだと思います。法改正というと、どうしても「規制強化」というイメージがつきまといますが、今回の労基法改正の本質は、多様な働き方や先進的な働き方を、企業が制度として適切に担保できるようにすることにあります。

たとえば副業・兼業や育児・介護休業の活用は、企業にとって多様性を推進する手段となり得ます。これらを積極的に活用すれば、従業員への魅力づけや採用力の強化にもつながりますし、逆に保守的に対応すれば人材獲得の機会を逃し、競争力を落とすリスクもあります。今後、企業のスタンスによって二極化が顕著になっていくでしょう。

こうした機会を活用し、仕事の価値の向上、エンゲージメントの向上、生産性の向上につなげながら、積極的に働き方を変革していく。たとえばTeamSpiritを活用して、働き方改革から人的資本経営までを徹底して推進しているミツカングループさんのような考え方が重要でしょう。こうした「働き方を自由にすることで価値向上にいかにつなげるか」という発想が重要なのです。

※ミツカングループの事例は下記をご覧ください。
https://note.com/teamspirit_com/n/n31e9c34e521d

編集部:
「守るための規制」ではなく、会社の姿勢次第で「柔軟な働き方を広げる仕組み」にもなる、ということですね。

松井先生:
その通りです。だからこそ、人事労務担当者には単なるコンプライアンス対応にとどまらず、経営戦略に沿った制度設計の視点と柔軟な発想が求められます。「働き方改革」は、過剰労働負荷を削減する最低限の基準でしたが、これからは人事労務の力量が、企業の競争力や経営そのものに直結していくと思います。

働き方の未来を描くー TeamSpiritが拓く人的資本経営の可能性

編集部:
2027年の労基法改正に向けて、企業が対応を進める中で、TeamSpiritはどのような役割があるでしょうか。

松井先生:
TeamSpiritの最大の強みは、単に法令に準拠するだけではなく、勤怠データを活用して新しい働き方をデザインできる点にあります。

先ほども申し上げた通り、今回の労基法改正の本質は、企業が多様な働き方や先進的な働き方を制度として従業員に適切に担保できるようになることです。TeamSpiritのように柔軟性の高いツールであれば、企業ごとの方針にあわせて自由度の高い制度設計が可能で、そこから創造的な働き方の支援につながります。

また、働き方の実態を可視化する「ワークログ」の活用も非常に重要です。LIFULL社のような先進事例では、ワークログを生産性向上に結びつける工夫が実践されています。これは単なる労務管理や工数管理を超えて、働き方そのものをデザインする「労働デザイン」の取り組みといえるでしょう。

※株式会社LIFULLの事例は下記をご覧ください。
https://www.teamspirit.com/case/lifull

編集部:
働く活動情報から得られるデータを活用して、さらに制度を発展することができるわけですね。

松井先生:
そうです。また、パルスサーベイとの組み合わせも有効ですね。

従業員の回答は必ずしも本音ばかりではありませんが、完全な嘘でもない。全体を定量的に見ることで傾向が把握でき、特に外れ値が浮かび上がるのがポイントです。例えば勤怠の乱れが急に現れた場合、それは職場で何かが起きている兆候として捉えられます。勤怠と内面の状態を重ね合わせることで、組織の健全性を可視化できます。  

編集部:
なるほど。勤怠データやパルスサーベイのような定量情報を組み合わせることで、制度設計だけでなく、組織の状態や課題の兆候まで把握するべきなんですね。
そうしたデータ活用が進む中で、法令との向き合い方も変わってきているのでしょうか?

松井先生:
法令を単なる「制約」として捉えるのは、もはや古い考え方です。法令の趣旨に立ち返り、創造的に活用できる部分を見出していくことが重要です。TeamSpiritは、そうした創造的な働き方を促す プラットフォームになっていると感じています。

たとえば、フレックス制度の拡充や勤務間インターバル制度の導入なども、法令の背景や目的を理解すれば、スムーズに制度設計ができます。法令は企業活動を縛るものではなく、むしろ働き方を自由にしていくための強力なツールとして活用できのです。

編集部:
従業員にとってはフレックス制度の拡充などは働きやすさにつながる制度ですが、企業側のメリットはどのような点にあるのでしょうか?

松井先生:
根本的なメリットは、これまで制度的に難しかったことが、より柔軟に実現できるようになる点です。フレックス制度や勤務間インターバル制度、複雑だった賃金関連の対応も、法改正によって制約が取り除かれ、企業が主体的に制度設計できるようになります。

また、労働時間の開示や人的資本情報の提示も、単なる法令順守ではなく、企業の働き方に対する考え方や工夫を示す「創造的なストーリー」として発信することが重要です。
企業が従業員に自由度を与えつつ客観的な情報を提供し、自律的に働き方を選べる環境を整えることが、これからの人事戦略の鍵になります。

編集部:
自由度が高まる分、従業員のセルフマネジメントも重要になりますね。

松井先生:
その通りです。働き方の自由度が高まるほど、自律的に判断し、成果を出す力が求められます。これは個人にとっても、働く価値や意義を再認識する機会になり、キャリア形成にもつながるはずです。

引用元: 労基法大改正 戦略レポート iU組織研究機構 松井勇策

編集部:
今後、企業が人的資本経営を進める上で、最も重要な視点は何でしょうか?

松井先生:
人的資本経営で最も重要なのは、「働き方について、仕事を通じた価値創造を高める形で変革が進められていること」です。今回の労基法改正は、こうした人的資本経営による変革を進めるためにさらに法令政策が整備されたということだと思います。社員一人ひとりの働き方を通じて、組織全体の付加価値と生産性を高めることが核になります。

人的資本経営は、たとえば人材育成から始めたとしても、最終的にはすべての領域の変革へとつながっていきます。
働く人にとって最も実感しやすい働き方の変化は、まさに「働き方」そのもの、つまり労働時間や労働慣行、賃金などの領域です。こうした領域にまで変革が徹底されてこそ、人的資本経営の本質が具現化されると言えるでしょう。

最近では、働き方の変革を具現的に進める企業も増えてきています。人的資本経営に真摯に取り組んでいる企業は、自然とその方向へと進みつつあります。一方で、まだそこまで踏み込めていない企業もあります。人事制度や育成施策が整っていても、それが日々の働き方に反映されなければ意味がありません。

「働き方」、つまり労働時間・労務制度・賃金など、いわゆる労務管理の領域の内容も含めてストーリー化され、日々の業務の中で変革が実現されていることこそが、人的資本経営の本当の実現だと思います。
裏を返せば、こうした領域への取り組みが不十分な場合は、能力や職種や調査結果の分析をもとに研修などを実施しているだけで、あまり働き方そのものには十分に反映されていない可能性があります。

編集部:
その本質を踏まえた上で、企業としてのチームスピリットに期待されていることはありますか?

松井先生:
チームスピリットは、日本の人事領域において重要なポジションにあると思っています。人材戦略上、最も重要である「働き方」、つまり勤怠管理や労務の実態把握や変革を、ここまで戦略的に行えるツールは他にないからです。
それゆえに、今回の労基法改正を日本の働き方の変革につなげる責任や重要性は、この上なく重いのではないかと感じます。戦略人事の視点から、人的資本経営の推進をする上で鍵となる存在だと思いますので、今後も人事領域でリーダーシップを発揮し、働き方の未来を切り開く力強い発信をしていただきたいと思います。

編集部
松井先生、ありがとうございました。
今回のインタビューでは、制度改正の本質や人的資本経営の未来について、松井勇策先生から多くの示唆をいただきました。改めて、貴重なお話をありがとうございました。

松井先生の講演されているオンデマンドセミナーのアーカイブが、下記ページよりご覧いただけます。
https://www.teamspirit.com/event

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